昨年の9月、台北を訪れた木曜・金曜・土曜と酒店をやめた子たちと夕食を食べていました。金曜日には「微笑(ウェイシャオ)」という子と会ったのですが、微笑と私とのことを少し書かせていただきます。

台湾にはいろいろな出逢いがあって、心が動くような出来事もあります。皆さんにもそんな出逢いがありますように・・・・。

微笑とは2月の寒假(冬休み)にとある制服店で出逢いました。微笑は18歳になったばかりの高中(日本の高校にあたる)の1年級でした(台湾は18歳以上ならば夜の仕事ができ、学校は関係ありません。たくさんの高中の子がいます)。微笑は家庭的に恵まれておらず、高中も学費を払うことができず、一度退学した後に前年の9月から再び夜学(イエシャウ)の高中に入りました。

18歳になるまではセブンイレブンや夜市でアルバイトをして学費を貯めて入学し、18歳になればお酒も法的に飲めてクラブの仕事ができるので、それで稼げば学校を続けられると思っていたようです。微笑はちょっと派手な顔つきのきれいな子でしたが、少女の面影も残していました。酒を飲むことができず、仕事にも慣れていなかったので、2月にクラブで働きだした時は、台湾人の客から換枱(女の子を客が気に入らず、他の子と交換すること)が多い娘でした。お姉さんたちの小姐にも「酒が飲めないから客が怒る」とか「オドオドするから客が楽しめない」とか言われていました。私の幹部が「この子、お酒飲めないから助けてあげて」と言われて紹介されました。

開心という仲の良い子がいて、開心も高中やり直し組でしたから、気があったのでしょう。いつも私は微笑と開心を一緒に呼んでいました。微笑は名前の通り、いつもニコニコ笑容(笑顔のこと)がある娘で、心優しく、私は酒を飲むことを強要しないので、私の包廂にいる時間は安心していたようでした。しかし、3月に私の仕事が台湾からアジア全体になり、台湾にいないことが多くなり、微笑を呼べなくなった頃から彼女の悲劇が始まりました。

微笑はがんばらなければいけないと思ったのでしょう。

高中も2度目の退学は避けたかったという心理も働いていたと思います。常々、微笑は「家族いないから学校ぐらい出てかないと仕事ないからね」と言っていましたから。台湾人の客にあわせて、飲めない酒を無理に飲む日が続いたようです。台湾人の一気飲みや乾杯はすさまじく、微笑はベテランの小姐のようにうまくかわすこともできなかったようで、氷を入れるアイスケースに10缶ぐらいのビールを注がれてそれを一気飲みしたり、洋酒をストレートで玩遊戯で負けた罰として瓶ごと飲まされたりしたようです。吐いては飲み、涙を流しては飲みという日々が続いたと後から聞きました。

5月、酒店を訪れると微笑は姿を消していました。仲の良い開心に聞いても行方がわからず、姿を見ていないというのです。私は心配になって簡訊を数多く打ったのですが、返信もありませんでした。5月下旬、微笑から写真付きの簡訊が突然届きました。それは変わり果てた微笑の写真で、ガイコツのようにやせほそり、目はうつろになって病院のベットで横たわっている写真でした。コメントには「ごめん、胃腸をひどく壊し、食事がまったくできなくなった。今は病院にいる、本当にごめんなさい」と書かれていました。とても心配になり、どこに入院しているのか、酒店の子たちに聞いてもわかりません。医療費はあるのだろうか、体は本当に大丈夫なのか、厭な予感もありましたが、どうすることもできず、月日が流れていくだけでした。

8月初旬、突然、簡訊が来ました。「大丈夫、直ったから」とコメントがありました。「心配だから会おう」と返信すると「まだ全快していないので、もう少し待って、顔も変わってしまったし、昔の私じゃないからがっかりする」といった内容でした。9月16日の夜8:00に林森北路のあるセブンイレブンの前で彼女と6ヶ月ぶりに再会することになりました。遠目で私はすぐわかったのですが、キョロキョロ私を捜して見つけると走り寄ってきて子犬のようにいきなり抱きついてきました。

「微笑だよ、元気になったからね、心配してくれて本当にありがとう!」と以前の笑顔を見せてくれました。彼女と近くの店で食事をしたとき、IPHONEの写真をいっぱい見せてくれて、病気の時の写真や最近の様子の写真を見せながら話が止まらないぐらい話し続けてました。18歳の可愛い少女の顔がそこにはあって、元気になった微笑の顔を見ていると、無理して苦しんでいた酒店時代のことが思い出され、胸が詰まってしまいました。

「病院代はどうしたの?」と聞くと彼女は「経紀人から借りた」と言いました。とっさに私はいくらかのお金を少しばかり渡そうと思ったのですが、彼女がまったく受け取りません。「今はブティックで洋服を売る仕事をしていて少しずつ返しているから大丈夫、学校も休学してまた1年生からやり直しだけどちゃんと行くから」と言います。私が「いつから学校始まるの?」と聞くと無邪気に「来週からだよー」と答えていました。

結局、最後に無理矢理にお金を少しばかりわたしたのですが、別れ際、急にポロポロ泣き出し、「いつ日本帰るの?もう台湾に住まないの?」と聞いてきました。そして、「私、知っての通り家族いないも同然だから、心配してくれる人いないんだ」と言います。私が「仕事が今は台湾だけじゃないから、もう日曜日には日本に戻るんだ」と話すとポロポロまた泣き出し、「うん、わかった。○○さんは日本人だもんね」と言って、急に「バイバイ」と言って、林森北路を足早に歩き出しました。後ろから「微笑!你、加油!我常常支持你、我不忘記微笑永遠!」と言うようなことを言うのが、胸が詰まって精一杯でした。追いかけることすらできませんでした。

その後、酒店に行き、微笑の友人の開心と逢いました。彼女は今、学校に熱心に行っているので、一週間に3日しか勤めず、その日も12時から出勤するという簡訊が来ていました。しかし、彼女が姿を現したのは1時30分、大きく遅れて出勤したとのことでした。彼女はやはり、とても気持ちのやさしい娘で、20歳になるのですが、まだ、高中1年生、微笑と同じようにがんばっています。彼女は今回、私にプレゼントを用意してくれてました。だから、微笑のこともあったし、今回、絶対に逢わなければいけない子でした。

2月に一緒に何度も呼んでいた開心と微笑、人生はそれぞれ大きく別れてしまいました。

その日は一人で酒店に遅い時間に行ったのですが、とても感慨深くて私にとっては忘れることができない一夜となりました。酒店を出ると台北の風が本当に心地よくて、いろいろな思いが私の心の中をよぎりました。元気になって今は酒店を去った微笑とがんばり続けている開心。これから彼女たちの未来はどうなっていくのだろう・・・。少しばかり縁があった者として、もし、連絡がこれからもとれるなら、彼女たちの歩んでいく人生を見守っていこうと思っています。

9月18日の早朝、桃園飛行場で出国手続きをしていると微笑からいきなり簡訊が4通連続で届きました。

「真的好遺憾。我還有好多話好多故事都還没跟XX先生聊到」
(とても残念。私はまだとてもたくさんの話、とてもたくさんの出来事をすべてXXさんとおしゃべりしつくしていない)

「其實我一直都再硬撐逞強、也許看起來我很年軽、但我的人生路走的很曲折。我不是個好女孩、謝謝你在你在茫茫人群中發現了渺小的微笑」
(実は私はずっと無理してがんばって強情をはってきた。多分、私はとても若く見えるけど、私の人生はとても曲がりくねっていて、それを歩んできた。私はだからいい子なんかじゃないよ。でもありがとう、あんなにたくさんいる酒店の女の子たちの中からとてもちっぽけな微笑を見つけてくれて)

「一路順風!有機會的話換微笑去日本找○○先生」
(道中ご無事でいてね!機会があったら換わった微笑は日本に○○さんを見つけにいくからね)

「XX先生謝謝你對微笑的關心情疼愛和鼓力。微笑會更努力創造的我的奇蹟」
(XXさん微笑を可愛がってくれて、いっぱい励ましてくれる気持ちをくれてありがとう。微笑はもっと努力して奇蹟がつくれるようにするから)

大人げもなく、微笑の酒店を見て、空港で涙が出てしまいました。

返事を返すのも言葉を選び、これからの彼女の人生に幸あれと祈らずにはいられませんでした。ですから飛行機の窓から台湾の景色を見ると彼女とのいろいろなことが思い出されて、心の中の整理がつきませんでした。
18歳の少女が大人びた顔を無理してつくり、そこであった私のような、ただの客から何をもらったのだろう、何を私は与えることができたのだろう・・・。

微笑とまた、会えるかどうかはわかりません。

でも夜の闇とネオンの輝きの中にも女の子たちのいろいろな人生があって、彼女たちから私も元気をもらい、そして少しばかり彼女たちにも何か力を与えることができたのかもしれません。

台湾の夜の世界にはいろいろな小さな物語があって、私自身もとても純粋な気持ちになり、心が動かされることが数多くありました。皆さんにもこんな話があるかもしれませんね。今日は台北であった彼女たちとのいろいろな気持ちが交錯して眠ることがなかなかできません。皆さんも記憶に残る素晴らしい出逢いがあることを願ってやみません。

酒店には、こんな話が星のかけらのように落ちていて、そのかけらが時に光り輝く瞬間があります。ていねいに誠実に見つめていれば、きっと見つかるはずです。

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