冰果店を出て、
艋舺隘門を見ていたら時刻はすっかり4時頃になっていました。朝から萬華を回っていたという感じがせず、あっという間に夕刻。芊芊という子は人を飽きさせない魅力があって、この日も彼女の天真爛漫な行動につきあってきたのですが、実は用意周到に彼女は計画していました。きっと術前の家で一人すごしていた時にいろいろと考えていたに違い有りません。
「芊芊、你不累累嗎?」 (チェンチェン、疲れていない?)
「不要擔心了!好好的身體、没問題」 (心配しないで!体、超調子いいから。問題ないよ)
確かにあんまり運動はしていませんでしたが、炎天下の中、結構歩いてはいたので、ちょっと心配でした。しかし、出血もないし、痛みもないようでした。この子の取り柄はたくさんあるのですが、とても体が強いことがそのひとつです。酒店で上班して客人と大量に酒を飲んだ次の日も、いつもケロッとしているようなところがあり、無尽蔵の体力があるような印象を受けます。しかし、体のケアに無頓着かというとそうではなく、食べ物や茶に結構、こだわりがあって、いつも一人暮らしのせいか、自己管理をしっかりしていました。
「芊芊、我們過去在那裡?一起去華西街歡光夜市吧、你呢?」
(チェンチェン、どこへ行く! 一緒に華西街歡光夜市でも行くか?)
「不是。華西街歡光夜市是奇怪的夜市、而且有危險一點。 以前那邊是紅燈區。不好的」
(ううん。華西街歡光夜市は変な夜市だし、ちょっと危ない雰囲気もあるよ。それに以前、あのあたりは赤線だったからあんまり良くないの)
「其實我已經決定下次去的地方」 (実はもう次に行くところは決めてあるんだ)
まあ、芊芊のことだから、すでに行くところは決めているかなと思っていましたが、案の定でした。いつものようにどこへ行くかは教えてくれません。手を引っ張って、廣州路を再び、龍山寺の方に向かって歩き出しました。龍山寺の前を過ぎて先ほど行った西昌路との交差点に再び戻ると、青草巷とは反対方向に十二號公園に沿って歩き出しました。さっきこのあたりにいたのだから、先にこっちにくればいいのにと思いましたが、芊芊のことですから、何か企みがあるのでしょう。
暫くするととてもわかりにくくて店と店の間にある細い巷の方を見つけ、芊芊がまた「到了」と一言。艋舺独特のまた、摸乳巷のような道です。普通だったら見落としてしまうような家と家の隙間という感じでしょうか。
よく見ると巷の壁には看板があって、芊芊がそれを指さして教えてくれました。
「有巷口牆上有掛個招牌。福州元祖胡椒餅是很有名的麵食點心。超美味、不錯了!你知道嗎?」
(小径の壁の所に看板があるでしょ。そこに書いてある福州元祖胡椒餅はすごく有名な食べ物なんだ。すごくおいしくて、間違いないから!ねえ、知ってる?)
私は、台北に観光に来ているわけではないので、ガイドブックなどは見ないため、結構このような台北で有名なものには無頓着なところがあります。実はこの胡椒餅は結構、有名らしいのですが、この日までその存在すら知りませんでした。芊芊は実はしっかり考えていて、青草巷から廣州街の龍都冰果まで歩き、さらに戻るというコースをとったのは動いてお腹を空かすためでした。彼女は基本的に暑さには滅法強いし、元気ですから、術後とは言え、ゆっくり歩いてお腹を減らしたかったようでした。そして、私にもこの胡椒餅を彼女と同様、少しお腹を減らしておいしく食べさせたかったのでしょう。 芊芊はいつも先回りして考える子ですから、そんなところだと思います。
さて、芊芊と奥の看板を目指して、巷を30mぐらい進むと多くの人が店の前にたむろして待っていて、かなり人気があるのがすぐにわかりました。
店の前には桶か樽のような竈?があって、上には手でこねられたようなまだ焼いていない白い胡椒餅が乗っています。よく見ているとこの竈の中に入れて焼き上げています。私は初めて見たので、結構、感動しました。なるほど、炭火でこうやって焼くんだというのが、とても実感できました。 日本人だとタコ焼きやお好み焼きを鉄板で焼くような感じしかなかったので、この樽のような桶状の竈に入れて焼くというのはなかなか興味深かったです。芊芊の説明によるとあれは樽でも竈でもなく、桶で中には鍋子と呼ばれる石窯が入っているとのことで、台湾の有名どころの胡椒餅店には必ずあるという重要な代物。店先で焼いてくれますから、その使い方や胡椒餅の入れ方や出し方もよくわかります。
しかし、待っている人がたくさんいて、買い方が今ひとつよくわからなかったのですが、芊芊が教えてくれました。
「你記得來買胡椒餅可要先付款跟拿號碼牌喔!每個小格子裡的銅板,都紀錄著客人預定的數量,1塊錢代表1顆,很有趣吧!」
(胡椒餅を買う時は先にお金を払って、自分の順番の番号札を持っていくんだよ。この格子の中はお客さんの買う予定の数がすべて記録されているんだ。置いてある1元が頼んだ胡椒餅の数を表しているんだ。面白いでしょ)
なるほど。芊芊に言われてよくわかりました。とりあえず、芊芊に買ってもらわずに自分で買うことにし、芊芊と私の分、各1個を注文しました。號碼牌(番号札)をもらい、あとは待つだけです。運が悪いと30分ぐらい待つこともあるようですが、店の人に訊いたところ、10分から15分ぐらいということでした。タイミングがあるようで、晩餐にはちょっと早い夕方5時前だったこともあって、結構空いていたのはラッキーでした。待っている間、店の中で胡椒餅を作る様子をよく見ることができ、また、芊芊に胡椒餅のことをいろいろと教えてもらいました。
「胡椒餅是來源自於中國福州地區豬肉餡烤餅小吃的『蔥肉餅』 、後因餅加胡椒、逐漸由 『福州餅』 音訛為『胡椒餅』 的。調製肉餡、肉餡內包括剁碎長蔥、大量胡椒粉及各自店家特有香料。店家都備有大型圓柱形桶内包石窯、桶底部燒熱柴火、桶內部上方周邊便黏貼上十數塊胡椒餅、蓋上桶蓋烘烤餅、數分鐘後店家掀開桶蓋、持火鉗將桶壁上已烤熟餅一一挾出」
(胡椒餅は中国の福州の豚の挽肉を入れて餅にして焼いた「蔥肉餅」が元なんだ。それに胡椒を入れるようになって「福州餅」の発音が「胡椒餅」と似ていて今の「胡椒餅」という名前になったんだよ。挽肉を使って、挽肉の中に細かく葱を刻んで入れるの。そして大量の胡椒とそれぞれの店が工夫した香料を加えてるんだ。店は必ず、大きな柱状の石窯の入っている桶を持っていて、この桶の底に薪や炭で火を入れるんだ。桶の内部の上の方にだいたい10個ぐらいの胡椒餅をぐるっと廻すように貼り付けて焼くんだ。そして蓋をするの。数分後に焼き上がるから蓋をとって火箸で挟んで一つ一つ焼けた胡椒餅をはさんで取り出すとできあがりってわけ)
芊芊と話しながら15分ほど待っていると號嗎を呼ばれて、めでたくでき上がりました。胡椒の香りがほのかにして食欲をそそります。それと、とても大きくて、1個でも十分、食べこたえがある大きさと重量でした。1個45元なら十分に安いと思います。
芊芊と公園の方に行き、ちょっとした段差のところに座って食べ始めました。夕方になってきて少し気温も下がってきて外側がカリッと焼き上がっていますが、中はジューシーな肉汁と葱の味がうまく、さらに胡椒や香料がスパイスとしてよくきいていて、非常にうまいと言わざるを得ません。今まで、まったく知らなかったことをチョッピリ残念に思いましたが、芊芊が教えてくれたことにとりあえず感謝、感謝の気持ちです。
「好吃嗎?」 (おいしい?)
芊芊がいつもの自信ありげな顔で訊いてきます。いつも芊芊に連れてきてもらう所は確かにつまらなかったり、まずかったりしたことがありません。私はちょっとくやしかったのですが、芊芊の誇らしげな顔を見ると素直に彼女の言う通りという気持ちになってしまうから不思議なものです。このとらえどころのない台中娘の自由奔放さ、憎めないわがままさは私にとっては結構、心地よいものでした。
あたりはだんだんと暗くなってきて夕闇に包まれてきました。胡椒餅を食べた芊芊はお腹も満たして、さらに元気いっぱいになってきました。芊芊と行動をともにするようになってわかってきたのですが、彼女はまだ、したいことがある時は目が生き生きとしていて、酒店に上班しているような作り笑いをまったくしません。いつもエヘヘという感じに笑って話しかけてきて饒舌になるという特徴があります。
本当に芊芊は昨日、醫院で手術をしたのだろうか?それとも青草巷で飲んだ苦茶がきいているのだろうか?
「今天你還有時間嗎?」 (今日、まだ時間有るよね?)
「哈哈哈、當然的。我也有暑假、我有空。暑假之間我已經決定儘可能與你交際、陪你。你給我自由的心情、所以我很開心了」
(ハハハ、当然だよ。だって僕も夏休みだから、時間があるよ。それに僕はもう、夏休みの間出来る限り、芊芊と会ってつきあうことに決めたんだ。いつもチェンチェンは僕に自由な気持ちをくれる。だから僕はとってもハッピーだよ)
そう話すと芊芊はいきなり私の首に手を回し、抱きついてきました。
それは恋人や愛人というよりも一人暮らしをさせていた自分の可愛い娘と久しぶりの夏休みをすごすような妙な感覚でした。芊芊がどう感じていたかは私にはわかりません。ただ、たった一人で生きている台北でちょっぴり彼女の心の支えになれたのかもしれません。
芊芊は立ち上がり、私の手をとり、急に和平西路の方へどんどん歩き出しました。
いったい彼女は次にどこへ行こうとしているのか?
少しずつ夜のとばりが降り始めた萬華は、人の喧噪が少しずつ激しくなってきていました。
「芊芊、你不累累嗎?」 (チェンチェン、疲れていない?)
「不要擔心了!好好的身體、没問題」 (心配しないで!体、超調子いいから。問題ないよ)
確かにあんまり運動はしていませんでしたが、炎天下の中、結構歩いてはいたので、ちょっと心配でした。しかし、出血もないし、痛みもないようでした。この子の取り柄はたくさんあるのですが、とても体が強いことがそのひとつです。酒店で上班して客人と大量に酒を飲んだ次の日も、いつもケロッとしているようなところがあり、無尽蔵の体力があるような印象を受けます。しかし、体のケアに無頓着かというとそうではなく、食べ物や茶に結構、こだわりがあって、いつも一人暮らしのせいか、自己管理をしっかりしていました。
「芊芊、我們過去在那裡?一起去華西街歡光夜市吧、你呢?」
(チェンチェン、どこへ行く! 一緒に華西街歡光夜市でも行くか?)
「不是。華西街歡光夜市是奇怪的夜市、而且有危險一點。 以前那邊是紅燈區。不好的」
(ううん。華西街歡光夜市は変な夜市だし、ちょっと危ない雰囲気もあるよ。それに以前、あのあたりは赤線だったからあんまり良くないの)
「其實我已經決定下次去的地方」 (実はもう次に行くところは決めてあるんだ)
まあ、芊芊のことだから、すでに行くところは決めているかなと思っていましたが、案の定でした。いつものようにどこへ行くかは教えてくれません。手を引っ張って、廣州路を再び、龍山寺の方に向かって歩き出しました。龍山寺の前を過ぎて先ほど行った西昌路との交差点に再び戻ると、青草巷とは反対方向に十二號公園に沿って歩き出しました。さっきこのあたりにいたのだから、先にこっちにくればいいのにと思いましたが、芊芊のことですから、何か企みがあるのでしょう。
暫くするととてもわかりにくくて店と店の間にある細い巷の方を見つけ、芊芊がまた「到了」と一言。艋舺独特のまた、摸乳巷のような道です。普通だったら見落としてしまうような家と家の隙間という感じでしょうか。
よく見ると巷の壁には看板があって、芊芊がそれを指さして教えてくれました。
「有巷口牆上有掛個招牌。福州元祖胡椒餅是很有名的麵食點心。超美味、不錯了!你知道嗎?」
(小径の壁の所に看板があるでしょ。そこに書いてある福州元祖胡椒餅はすごく有名な食べ物なんだ。すごくおいしくて、間違いないから!ねえ、知ってる?)
私は、台北に観光に来ているわけではないので、ガイドブックなどは見ないため、結構このような台北で有名なものには無頓着なところがあります。実はこの胡椒餅は結構、有名らしいのですが、この日までその存在すら知りませんでした。芊芊は実はしっかり考えていて、青草巷から廣州街の龍都冰果まで歩き、さらに戻るというコースをとったのは動いてお腹を空かすためでした。彼女は基本的に暑さには滅法強いし、元気ですから、術後とは言え、ゆっくり歩いてお腹を減らしたかったようでした。そして、私にもこの胡椒餅を彼女と同様、少しお腹を減らしておいしく食べさせたかったのでしょう。 芊芊はいつも先回りして考える子ですから、そんなところだと思います。
さて、芊芊と奥の看板を目指して、巷を30mぐらい進むと多くの人が店の前にたむろして待っていて、かなり人気があるのがすぐにわかりました。
店の前には桶か樽のような竈?があって、上には手でこねられたようなまだ焼いていない白い胡椒餅が乗っています。よく見ているとこの竈の中に入れて焼き上げています。私は初めて見たので、結構、感動しました。なるほど、炭火でこうやって焼くんだというのが、とても実感できました。 日本人だとタコ焼きやお好み焼きを鉄板で焼くような感じしかなかったので、この樽のような桶状の竈に入れて焼くというのはなかなか興味深かったです。芊芊の説明によるとあれは樽でも竈でもなく、桶で中には鍋子と呼ばれる石窯が入っているとのことで、台湾の有名どころの胡椒餅店には必ずあるという重要な代物。店先で焼いてくれますから、その使い方や胡椒餅の入れ方や出し方もよくわかります。
しかし、待っている人がたくさんいて、買い方が今ひとつよくわからなかったのですが、芊芊が教えてくれました。
「你記得來買胡椒餅可要先付款跟拿號碼牌喔!每個小格子裡的銅板,都紀錄著客人預定的數量,1塊錢代表1顆,很有趣吧!」
(胡椒餅を買う時は先にお金を払って、自分の順番の番号札を持っていくんだよ。この格子の中はお客さんの買う予定の数がすべて記録されているんだ。置いてある1元が頼んだ胡椒餅の数を表しているんだ。面白いでしょ)
なるほど。芊芊に言われてよくわかりました。とりあえず、芊芊に買ってもらわずに自分で買うことにし、芊芊と私の分、各1個を注文しました。號碼牌(番号札)をもらい、あとは待つだけです。運が悪いと30分ぐらい待つこともあるようですが、店の人に訊いたところ、10分から15分ぐらいということでした。タイミングがあるようで、晩餐にはちょっと早い夕方5時前だったこともあって、結構空いていたのはラッキーでした。待っている間、店の中で胡椒餅を作る様子をよく見ることができ、また、芊芊に胡椒餅のことをいろいろと教えてもらいました。
「胡椒餅是來源自於中國福州地區豬肉餡烤餅小吃的『蔥肉餅』 、後因餅加胡椒、逐漸由 『福州餅』 音訛為『胡椒餅』 的。調製肉餡、肉餡內包括剁碎長蔥、大量胡椒粉及各自店家特有香料。店家都備有大型圓柱形桶内包石窯、桶底部燒熱柴火、桶內部上方周邊便黏貼上十數塊胡椒餅、蓋上桶蓋烘烤餅、數分鐘後店家掀開桶蓋、持火鉗將桶壁上已烤熟餅一一挾出」
(胡椒餅は中国の福州の豚の挽肉を入れて餅にして焼いた「蔥肉餅」が元なんだ。それに胡椒を入れるようになって「福州餅」の発音が「胡椒餅」と似ていて今の「胡椒餅」という名前になったんだよ。挽肉を使って、挽肉の中に細かく葱を刻んで入れるの。そして大量の胡椒とそれぞれの店が工夫した香料を加えてるんだ。店は必ず、大きな柱状の石窯の入っている桶を持っていて、この桶の底に薪や炭で火を入れるんだ。桶の内部の上の方にだいたい10個ぐらいの胡椒餅をぐるっと廻すように貼り付けて焼くんだ。そして蓋をするの。数分後に焼き上がるから蓋をとって火箸で挟んで一つ一つ焼けた胡椒餅をはさんで取り出すとできあがりってわけ)
芊芊と話しながら15分ほど待っていると號嗎を呼ばれて、めでたくでき上がりました。胡椒の香りがほのかにして食欲をそそります。それと、とても大きくて、1個でも十分、食べこたえがある大きさと重量でした。1個45元なら十分に安いと思います。
芊芊と公園の方に行き、ちょっとした段差のところに座って食べ始めました。夕方になってきて少し気温も下がってきて外側がカリッと焼き上がっていますが、中はジューシーな肉汁と葱の味がうまく、さらに胡椒や香料がスパイスとしてよくきいていて、非常にうまいと言わざるを得ません。今まで、まったく知らなかったことをチョッピリ残念に思いましたが、芊芊が教えてくれたことにとりあえず感謝、感謝の気持ちです。
「好吃嗎?」 (おいしい?)
芊芊がいつもの自信ありげな顔で訊いてきます。いつも芊芊に連れてきてもらう所は確かにつまらなかったり、まずかったりしたことがありません。私はちょっとくやしかったのですが、芊芊の誇らしげな顔を見ると素直に彼女の言う通りという気持ちになってしまうから不思議なものです。このとらえどころのない台中娘の自由奔放さ、憎めないわがままさは私にとっては結構、心地よいものでした。
あたりはだんだんと暗くなってきて夕闇に包まれてきました。胡椒餅を食べた芊芊はお腹も満たして、さらに元気いっぱいになってきました。芊芊と行動をともにするようになってわかってきたのですが、彼女はまだ、したいことがある時は目が生き生きとしていて、酒店に上班しているような作り笑いをまったくしません。いつもエヘヘという感じに笑って話しかけてきて饒舌になるという特徴があります。
本当に芊芊は昨日、醫院で手術をしたのだろうか?それとも青草巷で飲んだ苦茶がきいているのだろうか?
「今天你還有時間嗎?」 (今日、まだ時間有るよね?)
「哈哈哈、當然的。我也有暑假、我有空。暑假之間我已經決定儘可能與你交際、陪你。你給我自由的心情、所以我很開心了」
(ハハハ、当然だよ。だって僕も夏休みだから、時間があるよ。それに僕はもう、夏休みの間出来る限り、芊芊と会ってつきあうことに決めたんだ。いつもチェンチェンは僕に自由な気持ちをくれる。だから僕はとってもハッピーだよ)
そう話すと芊芊はいきなり私の首に手を回し、抱きついてきました。
それは恋人や愛人というよりも一人暮らしをさせていた自分の可愛い娘と久しぶりの夏休みをすごすような妙な感覚でした。芊芊がどう感じていたかは私にはわかりません。ただ、たった一人で生きている台北でちょっぴり彼女の心の支えになれたのかもしれません。
芊芊は立ち上がり、私の手をとり、急に和平西路の方へどんどん歩き出しました。
いったい彼女は次にどこへ行こうとしているのか?
少しずつ夜のとばりが降り始めた萬華は、人の喧噪が少しずつ激しくなってきていました。