一生懸命、太陽餅の製餅をして、芊芊の台中時代によくしてくれた生産部で働くおじさんやおばさんと談笑して自分たちが作ったちょっと不出来な太陽餅を食べているともう時刻は下午の3時頃になっていました。

芊芊が時計を見て、思いついたように言いました。

「我想顯示我最喜歡的美麗的景色」 (私は私が一番きれいだと思っている景色を見せたいの)

「没有時間的・・・」 (時間があんまりない・・・・) 

芊芊が急いでお世話になった元明商店の方々に御礼を言い、私も皆さんにあいさつをして、急いで車に向かいました。芊芊が私に告げた行き先は「台中航空站」、すなわち、台中の飛行場でした。道は一本道で中清路を北西方向にどんどん走っていきます。中山高速公路を通り越し、さらに走っていくと右側には無粋なコンクリートの壁でかこまれた台中航空站の外壁が見えてきました。周りは本当に殺風景で、私はまた芊芊がこの飛行場のどこかに素晴らしいスポットがあってそこに行くのかとばかり思っていました。 

6237156857_80b62dbca9_z

しかし、台中航空站のあたりで車を駐める様子はまったくありません。芊芊はカーナビを見つめると私に道の指示を細かくしだしました。航空站をあっさり通り過ぎるとどんどん海のある方角に向かって車を進めていきます。そして、高美路という細い田舎の道に入りました。途中、宮の派手な門がありましたが、まったく台湾の田舎の素朴な家が田園風景の中に広がっている感じの何にもない所です。

「芊芊、有什麼?」 (チェンチェン、何があるの?)

芊芊はまったく、詳しいことを話しません。時間はもう午後4時半頃で少しずつ、日も傾きかけていました。

「直走!」 (まっすぐ行って!)

芊芊は何かを追い求めるような顔をして、私に言います。そしてとうとう、道はつきあたりが見えました。何かお城のような建物があり、托兒所と書いてあります。さらにその奥には赤白の灯台のような建物が見え出しました。

takujisho

そしてその托兒所の横を通り抜けたつきあたりには、何もない、本当に何もない広大な景色が広がっていました。車を置くスペースがあり、そこに車を駐めて降りた私たちが見たものは・・・・・。

私はその時の芊芊の顔を忘れることができません。

海の方には14基の大きな風力発電用の風車が無機的に立ち並んでいました。そして、海の方に向かって、ちょっとした堤防があり、そこに欄干がある橋のような歩行用の道に昇ってみると、美しい夕日に照らされた湿地が広がっていて、何人かの人が残照に輝く湿地を歩いているのが見えます。湿地の方に芊芊と手をつないでゆっくり歩いていくとたくさんの鳥がいて、さらにちょっと満ち潮だったのか、海水も少し満ちており、それは見る者の心を打つ本当に美しい光景でした。

高美1

高美6

いつもは饒舌でお茶目な芊芊も物静かでした。本当に美しいもの、真に心を感動させる場面に出会った時、人はあまりにもその素晴らしさに魅入ってしまい、きっと言葉を失ってしまうのでしょう。

私と芊芊は穿いていた靴を脱ぎ、湿地の浅瀬に足を少しだけ踏み入れました。小さな魚がいっぱい群れをなして泳いでいるのが見えます。そして、地平線の向こうには無機的で現代的なデザインの風車が見事なぐらい風景にとけ込んで、幻想的な空間を創り出していました。

高美4

高美3

「芊芊、很美麗的風景哦。我真的感動了・・・」 (チェンチェン、とても美しい景色だよ。すごく感動した・・・。)

この時、芊芊は本当に多くを語りませんでした。
そして、恍惚とした彼女の表情は神々しい雰囲気すら感じさせました。

彼女は國小の頃、ここに学校から遠足を兼ねて自然観察の勉強に来ていて、この「高美濕地」に来るのは10年ぶりぐらいでした。その時に見た夕焼けの美しさを忘れることができなかったといいます。彼女の故郷の台中の周辺には芊芊のいろいろな想い出がたくさん散りばめられていて、今回の旅は結果的には彼女にとって「自分探しの旅」でした。いろいろな想い出の地を訪れることにより、今の自分をもう一度、見直し、そして新たな希望を見いだそうとしているように私の目には映りました。

「謝謝、芊芊」 (ありがとう、チェンチェン)

あまりにも心に焼き付く風景を前にして、ここに連れてきてくれた芊芊に言葉をかけました。

「私の方こそ、サンキューだよ」

驚いたことに彼女は日本語と英語で言葉を返しました。そして、濡れたままの足も気にせず、飛びつくように抱きついてきました。本当に純粋な少女のように。私も彼女を心から抱きしめました。それは芊芊の体を抱きしめるというよりは、彼女のもつ、やさしい気持ちを逃がさないように抱きしめたかったからかもしれません。

芊芊は軽いキスをした後、照れくさそうにすぐにいつもの「エヘヘ」という感じの笑顔を見せて、飛び跳ねていきました。幼い好奇心たっぷりの子供のように、童心にかえった芊芊がそこにはいました。

高美2

私たちはしばらく時間も忘れ、高美濕地に佇んでいました。

時折、芊芊は無邪気に羽を休めている水鳥に近づいて驚かしたり、泳いでいる小魚を手ですくってとろうとしたり、すぐにいつもの茶目っ気たっぷりの行動を繰り返し、ロマンチックな雰囲気はあっという間になくなってしまいました。それは彼女の照れ隠しの裏側の行動だったのかもしれませんが。

高美

そして、あたりはもう随分、暗くなってきました。

「芊芊、我們出発的! 下次我們過去在那裡?」 

(チェンチェン、そろそろ出発するよ!今度はどこへ行くの?)

いつもの芊芊の元気な声が返ってきました。

「秘密的!」

高美0

600_94

【台中旅遊景點推薦】台中高美濕地/高美溼地一日遊